規模の経済と技術進歩・スクウェアの事例から
「規模の経済と規模の不経済」シリーズは、その6で終わるつもりでした。
しかし、週刊 東洋経済 2013年 1/12号 で、その応用を用いている企業が紹介されています。
その企業とは、ジャック・ドーシー※率いる、スクエアです。
スクエアは、スマホ(携帯端末)のイヤホンジャックに、
「スクエア・カード・リーダー」を差し込むだけで、クレジットカードによる決済を可能にした、
技術進歩を起こした会社です(YouTube参照)
小規模店舗や個人事業主など、従来のクレジットカードでは手数料が高くて、
カード決済ができなかった層を中心に、サービス開始から3年弱の間で、
100億ドルもの決済額を達成しています。
もう一度おさらい・規模の経済について
「規模の経済と規模の不経済」シリーズでは、
企業活動の要である、利潤について「利潤 = 総収入 - 総費用」と定義します。
次に、総費用に含まれる固定費用を調整し、利潤の最大化をはかるというテーマでした。
具体的には、以下のような考え方で、平均総費用を低く抑えて利潤を確保します。
- 大量生産が見込める→高い固定費用と低い可変費用で対応
- 大量生産が見込めない→低い固定費用と高い可変費用で対応
生産期間に「長さ」がある場合、最初に投入する固定投入物の量(固定費用)を多くし、
長期的に平均総費用を低下させる状態のことを、規模の経済といいます。
いわゆる、「作れば作るほど(売れば売るほど)儲けの幅が大きくなる」という状態です。
逆に、生産期間に「長さ」があり、最初に投入する固定投入物の量(固定費用)を多くしても、
長期的に平均総費用を上昇させている状態のことを、規模の不経済といいます。
いわゆる、「作れば作るほど(売れば売るほど)儲けの幅が小さくなる」という状態です。
固定費用が低いのに大量生産できるスクウェア
スクウェアのミッションは、今までカード決済について手つかずだった層に、カード利用を促し、
人々に「新しい体験(週刊 東洋経済 2013年 1/12号P41)」をしてもらうことです。
具体的には、現在、アメリカには800万か所のクレジットカード利用店舗がありますが、
中小2,600万か所の店舗には、まだカード決済ができません。これら中小の店舗に、
スクウェアが開発したカードリーダーを、行き渡らせなければなりません。
そこで、同社は小売事業者に対して、カードリーダーを無料で配り、
決済手数料を1回につき利用額の2.75%(もしくは月額275ドルの使い放題)という、
「低額」にして利用者の増加をはかっています。スクウェアは、生産のための可変費用を、
低く抑えているのです。
一方で、スクウェアの現在のミッションを、ミクロ経済学の言葉を使って表すと、
「大量生産・大量消費」のモデルです。このモデルで利潤をあげようと思うと、
最初に「高い固定費用」が必要です。つまり、開発や研究などの初期投資が、膨大となります。
しかし、スクウェアでは、カードリーダーの開発・普及のために、「低い固定費用」を採用しています。そのため、技術進歩の恩恵に浴した方法で、「費用のかからない」研究・開発投資を行っています。
開発スペースは公共施設。試作品は自作
スクウェアは、「低い固定費用」での研究や開発を実現するために、サンフランシスコにある
市民用に開放された、工作スペースで機械を動かし、試作品を自作しています。
このような工作スペースは、日本ではまだ認知度が低いようですが、
FabLab(ファブラボ)と呼ばれ、鎌倉市などで活動しています。
FabLab鎌倉のWebサイト
かつては、高価すぎて政府機関や大企業など、限られた人間にしか、触れなかった工作機械が、
技術進歩の恩恵を受けて、個人でも支払える費用で、「公共スペースにおけるモノづくり」が、
できるようになっています。(巷間、うわさされている「3Dプリンタ」の低価格機種は13~14万円)
工作機械 / HIRAOKA,Yasunobu
ミクロ経済学でいう技術進歩とは?
それでは、規模の経済や規模の不経済という考え方は、ミクロ経済学の考え方から
なくなるのでしょうか?管理人は、決してなくならないと思います。
むしろ、スクウェアのような現象は、技術進歩という概念で、説明ができます。
当ブログの参考文献の一冊である、マンキュー経済学〈1〉ミクロ編 では、
技術進歩を次のように定義しています。
"科学者や技術者が新しくてより良い方法を絶えず見出している(方法)"
(P531)
スクウェアは、工作機械の技術進歩の恩恵に浴して、安価なカード決済の普及につとめます。
そのカード決済の技術進歩を受けて、また別の事業者が、「高い固定費用」を「低い固定費用」に変え、新たな技術進歩を遂げます。
規模の経済や規模の不経済という概念は、相変わらず残りますが、個々のサービスや製品に
おいては、スクウェアのような「技術進歩」のサイクルが、繰り返されると思います。
※ジャック・ドーシーはtwitterの創業者であり、2013年1月現在同社の会長も務めている。
【関連エントリ】
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規模の経済と規模の不経済その6
規模の経済と規模の不経済その5
規模の経済と規模の不経済その4
規模の経済と規模の不経済その3
規模の経済と規模の不経済その2
規模の経済と規模の不経済その1
【参考文献】
週刊 東洋経済 2013年 1/12号 [雑誌]
田中浩也
FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 (Make: Japan Books)
オライリー・ジャパン
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