規模の経済と取引費用の問題
藤吉郎くんの、ソフトクリーム2号店における販売(生産)の条件は、次の通りです。
- 販売価格は常に同じ
- 費用は常に低くする
- 利潤が最も大きくなる生産量を見つける
- 「長期的」な猶予が与えられている
一方で、藤吉郎くんは、1日あたりの需要予測として、以下の仮説を立てています。
- 2号店の開店直後は、1号店とほぼ同じ需要が見込める
- ただし、2号店の近くで大学のキャンパスが新設され需要が増加する見込み
そこで藤吉郎くんは、「時間」と「販売(生産)の増加見込み」を
キーワードとして、「高い固定費用」をかけ、長期平均総費用を低下させました。
このことを規模の経済といいます。
ピン / i-eye
分業と規模の経済
それでは、このシリーズのタイトルにも使った、規模の経済は、何が要因で
発生するのでしょうか?それは、生活水準の上昇によって、自給自足の経済から、
労働者間での分業が、可能となった経済に発達したために、起こると考えられています。
"すべての仕事を1人でやろうとする者は、通常どの仕事も結局うまくできない。雇用した労働者に最大限の生産性を発揮してほしいと願うとき、企業は労働者に限定した範囲の仕事を割り当て、その限定された仕事に熟練してもらう場合が最もよい場合が多い"
(マンキュー経済学 第2版 ミクロ編 P378「第13章生産の費用」)
規模の経済によるメリットを最大限生かした古典的な例は、「国富論」の著者として
有名なアダム・スミスが視察した、ピン工場における、ピンの大量生産です。
この工場では、それぞれの労働者が、生産の各工程において、
- ワイヤーを取り出す係
- ワイヤーを引き延ばす係
- ワイヤーを切る係
- ワイヤーの先端をとがらせる係
- ワイヤーの先端を研磨する係
- ピンの頭部を作る係
- 研磨されたワイヤーにピンの頭部を取り付ける係
- 完成品を紙袋に入れる係
etc
など、分業がしかれています。スミスは、もし、各労働者が全ての工程を、1人で担当すると、
1日あたり20本のピンを生産するのも難しいとしています。
しかし、視察した工場では、各労働者が、分業を行うことによって、
1日4,800本ものピンを生産していると述べています。
取引費用と規模の不経済
もっとも、このような分業は、企業が労働者を多数雇用し、
大量生産を行っている場合にのみ実現が可能です。
そもそも、大量生産の前に、大量消費(需要)が見込めるかどうか、ということも重要です。
もし、大量生産がすでに実現している、または大量消費は見込めないなど、
生産水準がすでに高い状態にあるときには、固定費用の拡散効果よりも、
可変費用の収穫逓減効果が強く作用し、長期の平均総費用は上昇します。
これを規模の不経済と呼びます。
規模の不経済が発生しているとき、すでに生産規模の拡大によるメリットは失われています。
企業内における「調整」の問題が、発生しています。生産規模の拡大が組織を複雑にさせ、
情報の伝達に関わるコスト(取引費用)の発生によるデメリットが、顕在化しています。
もちろん、企業が最終的な意思決定をするかどうか、費用曲線だけでは分かりません。
企業の活動目的は、「利潤 = 総収入 - 総費用」の計算式で示されているように、
総収入を増やすことも、利潤の最大化につながるからです。
ですが、次の「完全競争と供給」シリーズでは、やはり企業の費用曲線には、
重要な意味が隠されていることが分かります。
(規模の経済と規模の不経済おわり)
【関連エントリ】
読書感想文で世の中を分析する 企業・市場・法
読書感想文で世の中を分析する 組織の限界
【参考文献】
国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)
国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究 (下)
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